2023.05.08

電子帳簿保存法に対応した電子契約・契約書の取り扱いについて

電子帳簿保存法に対応した電子契約の取り扱いについて

電子署名を付して契約したデータは、電子帳簿保存法に従って保存されなければなりません。
どういった要件を満たせば電子帳簿保存法に添えるのか、法律の規定内容を正しく理解しておく必要があります。
この記事では電子帳簿保存法に従った電子契約データの保存方法を解説します。
法律を守って電子契約関係書類を保存するために、参考にしてください。

なお本稿は2023年4月の時点で執筆したものなので、その時点での情報が記載されています。

目次

電子帳簿保存法とは

考える女性

電子帳簿保存法とは、国税関係書類を電子データなどで保存するための要件が規定されている法律です。
正式名称は「電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律」といいます。
たとえば所得税や消費税などに関係する電子データの保存方法が規定されており、電子帳簿保存法による保存方法が守られなかった場合には、加算税などのペナルティが課される可能性もあります。

電子帳簿保存法が定める電子データの3つの保存方法

電子帳簿保存法が定める電子データの保存方法には、以下の3パターンがあります。

電子帳簿等の保存

電子データで作成された電子帳簿などの保存方法が定められています。

スキャナ保存

書面で作成された契約書をスキャナで電子データに出力して保存する方法が定められています。

電子取引

そもそも電子データで取引されたものを保存する方法が規定されています。

なお電子帳簿保存法は2022年1月に改正され、保存要件の緩和や承認制度の廃止などによって、以前より適用しやすくなっています。

電子保存できる国税関係の書類

決算関連書類

電子保存できる国税関係の書類は、大きくわけて3種類あるので、それぞれについて紹介します。

国税関係書類

電子帳簿保存法により保存できる国税関係書類には以下のようなものがあります。

  • 決算関係書類
  • 賃貸対照表
  • 損益計算書
  • 棚卸表

取引関係書類

電子帳簿保存法で保存が認められる取引関係書類には、以下のようなものがあります。

  • 請求書
  • 契約書
  • 注文書
  • 見積書
  • 納品書
  • 領収書

国税関係帳簿

電子帳簿保存法により保存できる代表的な国税関係帳簿を示します。

  • 仕訳帳
  • 現金出納帳
  • 売掛金元帳
  • 固定資産台帳
  • 売上帳

電子帳簿保存法における契約書の位置づけ

電子帳簿保存法において、契約書(電子契約データ)は「スキャナ保存」または「電子取引」に該当します。
過去に紙で作成された契約書は「スキャナ保存」、あらたに電子契約で作成されたものは「電子取引」として保存する必要があります。

紙の契約書を電子化する方法

スキャンする女性

紙の契約書をスキャナで電子化するには、以下の要件を満たさねばなりません。

入力期間の制限

まずはスキャナ保存の入力期間に制限が設けられています。
具体的には、紙の契約書を受け取ったら、おおむね2か月と7営業日以内に電子化しなければなりません。

タイムスタンプの付与

契約書をスキャナで保存するには、不正や改ざんを防ぐため、速やかにタイムスタンプを付与する必要があります。

スキャナ・パソコンのスペック等

スキャナ保存を行うためには、一定以上のスペックを備えたパソコンやスキャナが必要です。具体的には明瞭に情報を読み取ることが可能で問題なく出力できる環境を整備する必要があります。

上記に加え、過去分の重要書類については「所轄税務署長等への適用届出書の提出」が必要です。

新たに電子契約を締結する場合の保存方法

新たな契約を結ぶような握手

新たに電子契約を締結する場合の電子データ保存方法としては、基本的に以下の要件を満たさねばなりません。

真実性の要件

電子データは紙の書類以上に不正・改ざんなどが起こりやすく、書類の正しさを正確に証明する必要があるため、真実性の要件として以下を守らねばなりません。

訂正・削除履歴の確保

帳簿に係る電磁的記録に係る記録事項について訂正又は削除を行った場合には、これらの事実及び内容を確認することができること
帳簿に係る記録事項の入力をその業務の処理に係る通常の期間を経過した後に行った場合には、その事実を確認することができること

引用:電子帳簿保存時の要件|国税庁

相互関連性の確保

帳簿に係る電磁的記録の記録事項とその帳簿に関連する他の帳簿の記録事項との間において、相互にその関連性を確認できるようにしておくこと

引用:電子帳簿保存時の要件|国税庁

関係書類等の備え付け

帳簿に係る電磁的記録の保存等に併せて、システム関係書類等(システム概要書、システム仕様書、操作説明書、事務処理マニュアル等)の備付けを行うこと

引用:電子帳簿保存時の要件|国税庁

可視性の要件

電子データを保存してある書類をスムーズに出力・確認できるようにする必要があるため、可視性の要件として、以下を守らねばなりません。

見読可能性の確保

見読性とは、電子データの確認を容易にできる状態を指します。そのため、見読可能性の確保には以下の要件を満たさなければなりません。

帳簿に係る電磁的記録の保存等をする場所にパソコン、プログラム、ディスプレイ及びプリンタ並びにこれらの操作説明書を備え付け、その電磁的記録をディスプレイの画面や書面に、整然とした形式及び明瞭な状態で、速やかに出力できるようにしておくこと

引用:電子帳簿保存時の要件|国税庁

検索機能の確保

帳簿にかかる電磁的記録については、次の要件を満たす検索機能を確保しておくことが必要です。

(イ)取引年月日、勘定科目、取引金額その他のその帳簿の種類に応じた主要な記録項目を検索条件として設定できること
(ロ)日付又は金額に係る記録項目については、その範囲を指定して条件を設定することができること
(ハ)二つ以上の任意の記録項目を組み合わせて条件を設定することができること

引用:電子帳簿保存時の要件|国税庁

電子帳簿保存法に対応している電子契約サービスであれば、上記の要件は満たされていることが多いです。

2022年の電子帳簿保存法で改正されたポイント

法改正

2022年1月より、電子帳簿保存法は改正されています。
以下で改正の概要を示します。

タイムスタンプ要件の緩和

電子帳簿保存法によると、取引情報の改ざんを防ぐためなどに電子データへタイムスタンプを付与しなければなりません。
ただし改正により、タイムスタンプの付与期間が緩和されました。改正前は、3日以内に付与しなければなりませんでしたが、改正後は、取引情報の修正・削除の履歴が残るシステムあるいは取引情報の修正・削除が不可能なシステムを利用している場合、タイムスタンプの付与が不要とされました。またタイムスタンプが必要な場合であっても付与期間が延長され、最長2カ月程度となって事務負担が軽減されました。

検索要件の緩和

電子取引の記録を保存する場合、検索要件を満たさねばなりません。電子帳簿保存法の改正によって検索要件の項目が緩和されました。
法改正後の検索条件項目は以下の3つです。

  • 取引年月日(そのほかの日付)
  • 取引金額
  • 取引先

また税務職員による質問検査権によって電子データのダウンロードの要求に応じる場合、範囲指定と項目を組み合わせて条件を設定する機能は不要とされました。なお売上高が1,000万円以下の小規模事業者の場合、質問検査権にもとづくダウンロードの要求に応じられれば検索要件は不要となります。

事前承認制度の廃止

従来、電子データで作成された国税関係帳簿や国税関係書類を保存する場合、事前に税務署長の承認をとる必要がありました。
法改正後は事業者の負担を軽減するため、事前承認が不要とされています。

プリントアウト保存の廃止

従来、申告所得税や法人税関連については、電子データを紙に出力して書面を保存する方式でも良いとされていましたが、その方式は廃止されました。ただし早急な対応が難しい事業者も多くあるので、この改正内容の適用は2024年1月まで猶予されています。

電子契約を利用するメリット

メリット

書面による保存方法を廃止し、契約を電子化すると以下のようなメリットがあります。

コスト削減

契約書を電子化すると、印紙代がかからなくなります。
また印刷や郵送にかかる費用も不要となるので、大きくコストを削減できる企業も多いと考えられます。

電子契約で印紙がかからない理由については、こちらの記事で詳しく紹介しています。
電子契約で印紙代がいらない理由を国税庁の見解をもとに解説!

業務効率化

電子契約を導入すると、書面契約のように従業員が紙を出力して郵送作業を行う必要がありません。
メールのやり取りだけで契約を締結できるので、業務効率化につながります。

保管スペースが不要

書面の契約書の場合、量が増えてくると保管スペースをとられてしまいます。
電子データであればハードディスクやクラウド上などに保存できるので、スペースも不要となるメリットがあります。

紛失・盗難リスク軽減

紙の契約書の場合、紛失したり盗難に遭ったりするリスクが比較的高いといえます。
電子データ化すると、サイバー攻撃などのセキュリティ対策の必要はありますが、物理的な紛失や盗難のリスクはなくなります。

電子契約を利用するメリットについては、こちらの記事で詳しく紹介していますのでご参照ください。
電子契約とは?契約の種類や導入のメリット・デメリットをご紹介

電子契約を導入する際の注意点

注意点

電子契約を導入する際には一定のデメリットや注意点もあります。以下でどういった点に注意すべきなのか簡単に伝えます。

すべての契約書を電子化できない

現行法上、すべての契約書を電子化できるわけではありません。
たとえば事業用定期借地権の契約書は公正証書で作成する必要があります。
このように電子化できない種類の契約書を間違って電子化しないように注意しなければなりません。

セキュリティ対策が必要

契約書を電子化する際にはサイバー攻撃や情報漏えいなどに備えるためセキュリティ対策が必須となります。セキュリティソフトを導入したりアクセス権を制限したりするなどの対応策をとりましょう。

取引先が対応していないケースもある

取引先が電子契約に対応していないケースもあります。その場合、電子契約の締結方法について説明するなど理解を求める必要があります。理解を得られなければ契約の電子化は不可能です。

契約フローの変更

社内の契約フローにも変更が必要となります。そのため自社の従業員にも理解を得なければなりません。

電子契約を導入する際の注意点については、こちらの記事で詳しく紹介していますので、ご参照ください。
電子契約とは?契約の種類や導入のメリット・デメリットをご紹介

電子帳簿保存法に従って電子契約を導入する5つの手順

5つのステップ

電子帳簿保存法の要件に従って導入するには以下の手順で進める必要があります。

1.電子化できる、できない契約書の種類を確認する

まずは電子化できる契約書と電子化が不可能な契約書の分類を確認しなければなりません。
現在、ほとんどの契約書は電子化できますが、事業用定期借地権など法律上、電子化が認められていないものも中にはあります。振り分けを行いましょう。

2.電子帳簿保存法の要件を確認する

次に契約書や契約データの種類により、電子帳簿保存法の要件を確認する必要があります。
検索要件やタイムスタンプの付与など、スキャナ保存と電子契約それぞれの要件をあらためて確認しましょう。

3.電子契約サービスの検討と導入

電子契約を導入する際には電子契約サービスの導入がほぼ必須となります。電子契約サービスには多種多様なものがあるので、自社のニーズに応じたものを選ぶべきです。

自社に合った電子契約サービスを選ぶポイントについて、詳細はこちらの記事で解説していますので、ご確認ください。
自社に最適な電子契約システムを選ぶ10の比較ポイントをご紹介!

4.運用ルールの策定・見直し

社内の契約書作成や保存についての運用ルールについても、策定や見直しが必要です。
新規に電子契約を導入するなら運用ルールを策定しなければなりません。
すでに電子契約を導入している場合でも、電子帳簿保存法に従った方法に適合させるため、見直しが必要となります。

5.取引先への案内

書面で契約書を作成していた企業があらたに電子契約化する場合、取引先の同意を得られなければなりません。そのためにはまず、電子取引や電子契約を行いたい旨を事前に周知・案内して対応可否を確認するなど、協力を仰ぐ必要があります。
結果的にいくつかの取引先とは紙のままでやりとりを行うことも考えられるので、紙と電子の同時フローも検討しておくべきでしょう。

まとめ

電子帳簿保存法は、国税関係書類を電子データで保存するための要件を明らかにする法律です。税務上、電子契約データを保存するための方法が規定されているので、電子契約を導入する際には必ず守らねばなりません。契約書を電子化するとさまざまなメリットがあるので、これまで電子化していなかった企業でも電子化を検討すると良いでしょう。
電子契約導入の際には電子契約サービスの決定が非常に重要です。まずは電子帳簿保存法の要件を満たすことはもちろん、なりすましや偽造トラブルを防止するため、本人確認プロセスが厳格なサービスを選ぶべきといえます。
すべての電子契約サービスが十分な本人確認や契約締結権限の確認機能を備えているわけではありません。電子契約サービスを選ぶときには、コストだけではなく契約締結権限の確認機能をどこまで備えているかなどについても注意を払うべきといえます。
AgreeLedgerでは契約締結権限まで確認できるので安全性が高く、万一トラブルが生じた場合にも比較的安心なサービスといえます。今後電子契約の導入を検討している場合には、ぜひご相談ください。

監修者:福谷陽子

ライター 元弁護士

監修者:福谷陽子

弁護士業務を10年程度経験した後、ライターへ転身。正確な法律知識とライティングスキルをもとに、幅広く執筆活動に取り組んでいる。
弁護士時代には契約書作成などの企業法務案件を多く取り扱っており、電子契約や電子署名にも理解が深い。
執筆だけではなく編集や監修なども行っている。
「難しい法律を誰にでもわかるように簡単に伝える」ことがモットー。
公式サイト:元弁護士・法律ライター福谷陽子のblog

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